りんごの樹

大地にしっかりと根を張って空を満たそうとするりんごの樹。
そこでは苦労を乗り越えた爺さまと婆さまは腰を曲げて大黒柱の親父を守り立てる。
親父は強く頼りがいがあって大地から家族の食い扶持を運ぶ。
妻は明るく働き者だ。
息子も立派な一人前の働き手で
嫁が欲しいなどと末広がりの旗をふる。
放蕩息子の次三男坊が暴れまくれば家族の結束が生まれ
お互いを認め合って治まり
初代目 二代 三代
そして子沢山。
一本の樹は幾代もが同居する大家族であり
大らかな道理がここ果樹園の中で単純明快に回転していく。
ぐれたり荒れたりするものは生きぬく力があふれているからで大きくなる証し。

間違いをしでかしたものの
傷を負ったものの
出遅れたものの劣等感は大きいほど喜ばしい。
生きていくためのエネルギーは劣等感から湧きだすのだから。
歳老いたものが
未熟なものが
荒らくれものが
病持つものが居づらくなるような亡国の気配はここ果樹園の中にはない。
生まれたものはだれでも意味を持っている。
分らずに手を下してはならない。