うまいくだもの園の自然と樹のはなし

おたより

昨年、友人である姉崎一馬氏の主催する自然教室で当園に訪れた大阪府箕面市 の中学生 Y悠子さんとの通信
平成10年8月 6日着
奈良崎さんへ
 お元気ですか? うまいくだもの作ってますか? 私はとっても元気で す....が今年は自然教室に参加できずとってもかなしいです。 というのも、今年は中3だから勉強しなくちゃいけないからで.... でも、今部活のほうがいそがしくて全然勉強やっていないんですよね....な んせ うちの部(吹奏部)はいそがしいもんで、(実はきのうまで夏休みのはず なのに全然休みがなかった。)勉強どころか、宿題さえ本当に夏休み中に終わる のかしら....??ってかんじです。
 そうそう  夏休みの宿題で奈良崎さんに手伝ってほしいことがあるんです。 というのも国語の宿題で“「働く」ということについてインタビューし、それに 対する感想をスピーチする”というものが出て、どうせインタビューするなら、 少しでも自分がやってみたい仕事がいいかなぁとか思って、いろんな人の仕事を 考えてみた結果、奈良崎さん家のくだもの園がいい!!と決まったわけです。  手紙で申し訳ありませんが少し質問に答えてください。
    質問1 この仕事を選んだ理由。
    質問2 働いていて、うれしいと感じること、誇りに思うこと。
    質問3 働いていて、大変だな、しんどいなと思うこと。
    質問4 樹(果実)の育て方や、果実に対していつも思っていること。
    質問5 私たち子供へのアドバイスなど....
 他にもいろいろ書いてもらえるとうれしいです。よろしくお願いします。  このあいだ、スーパーで買物をしていたらサクランボがでていて、前に食べさ せてもらった冷凍のサクランボを思い出し、また“奈良崎さん家のうまいくだも の”を食べたいなぁと思う今日このごろ....  奈良崎さん家のうまいくだものを食べるために勉強しようっと。
ではこのへんで  悠子
悠子さんへ                        8月25日出し

 かわいいプリクラの貼ってあるお手紙ありがとう。君のことは忘れていません よ。くだもの園でお会いした時のように、元気な大阪弁で毎日充実しているので しょう。樹のお話を忘れていないようなのでうれしいです。  ところで、頼まれたことまだ大丈夫ですか? 遅れてしまって御免なさい。 さっそく

問1 この仕事を選んだ理由。

答  10年前後サラリーマンをしました。わたしはトータルな仕事をしたいと常々 思っていましたが、サラリーマンというのは分業で成り立っているのが仕事です から納得がいきませんでした。いろんな仕事をしましたが、働くということは人 に与えられた貴重な人生という自分の限りのある時間の大半を費やすということ なのです。  だからわたしは決断しました。ならば、どんなに大変でも自分らしい仕事をし ようと。昭和54年、31才でした。妻は29才、長女6才小1 長男5才 次 男2才、それまでの都会でのサラリーマン生活をやめて現在の土地に移住しまし た。 (そのころの心情は「うまいくだもの園詩集」のプロローグを読んでみて ください。)

問2 働いていてうれしいと感じること、誇りに思うこと。
答  うれしいと感じることは都会から離れて逆に多くの都会の人達が訪れるように なって、むしろ都会にいるときよりも都会の人との付き合いが深くなったこと。  悠子さんもそのひとりですよ。それにいろんなおいしいくだものを届けて喜ば れることが何よりうれしいことです。  誇りに思うことは、ここでは人間がひとりよがりで仕事をしていないというこ とです。自然と、くだものの樹と、人間が心を一つにしてくだものを育てあげる こと。 自然は私たちのパートナーであり、くだものの樹ももちろん、働く家族と仲間で あり、人間は孤独ではない。樹や草や太陽や月や星、雨、風、鳥、蝶、蜜蜂みん な助け合って生きていく仲間たちの世界です。彼らの仲間であることが誇りで す。(「うまいくだもの園詩集」農業 私たち を読んでください。)
やさしい紅色で香りに包まれた桃園
問3 働いていて大変だな、しんどいなと思うこと。

答  自然はふところが深いので仕事はもちろんその他のこともやってみたいこと、 興味が無限にあって体一つでは全然足りないこと、時間がないことです。最近で は我慢強くなって全部できなくってもいいから、一つ一つ楽しみながら完成して いこうと思っています。  仕事のことでしんどいと思ったことは、いいかっこしいでなく本当に一度も思 ったことはありません。わたしは好きな仕事を選んだからです。面倒なことに出 会うのがむしろ何が起きるのか、とってもわくわくの楽しみ。(詩集の存在 を 読んでみてください。)

真夏の風にゆれるりんご園

問4 樹の育て方、果実に対していつも思っていること。

答  樹の育て方  この星は水の星です。水の心から離れるものはこの星では生きられません。樹 を水のようにみることが大切です。樹の根は水を吸い上げ幹に押し上げます。幹 は噴水です。噴水の水が空に向かって昇り、昇りきって落ちるしずくが果物で す。樹の形を噴水として観ること。そうすると樹の心が見えてきます。  幹と根は相関関係にあります。根(根でする仕事)と幹(葉など幹上でする仕 事)の力が同じでないとバランスがとれず生きていられません。ただし、完全に バランスがとれてしまっては大きくなれません。プラスマイナス0で動けないか らです。  剪定は日当たりが悪くなるからするのではないのです。バランスを崩してあげ るためにします。なぜ枝を切るかというと幹(体)を小さくすることによって根 (心)を大きくするためです。性根とか根性とか根が優しいとか言葉でも根は心 を示しています。人と同じで根、つまり心が大きくないと健康で頼りになるもの に成長しないのです。また、枝を切って縮めることは、しゃくとり虫が前に進む ためにぎゅっと縮むこと、みんなもジャンプするときはバネをきかせるために足 を屈めるのと同じです。(詩集のりんごの樹 も大事なことです)   果実に対して思っていること。  りんごはりんごでなく、ラフランスはラフランスでなくさくらんぼはさくらん ぼではないのです。つまり、くだものはくだものではなく、自然とくだものの樹 と私たちの心の缶詰パッケージなのです。だから私たちはくだものの樹の前では 絶対人の悪口や暗い話はしません。全国からいろんな人たちがファームスティー に来ますが明るく楽しい話をすることを厳守してもらっています。みんなに届け るくだものに変なものがつまっていては失礼でしょ。(詩集の旅立つりんご を 読んでみてください。)

問5 あなた方子供たちにアドバイスすること。

 1  樹はこの星では人間の大先輩です。同じ空気を吸って、水を飲み、この大地か ら糧を得ています。違う心を持っている訳がないのです。言葉が通じなくともし っかり向き合うと心がわかります。見えをはったりごまかしたりする人間と違っ て樹は全てがむきだしです。しっかり観察すれば人の生き方まで教えてくれま す。それが知りたくて、多くの人たちが来るようになりました。先生をしている 方も来ます。人を見てもあまり学べるものではありません。なんでかというと他 人でも人は自分なのです。人間が人間を観ることは鏡で自分を観ていることと同 じです。だれでも自分からは、なかなか学べるものではありません。だから、人 間にとって自然が必要なのです、自分を高めるために。  自然を守るなどとおこがましいことを言わないこと。自然から学ぶ心を身につ けてください。自分が大きく豊かに優しく強くなるために。

 2  生きていくエネルギーはなんだろうか?を考えてほしい。 それはコンプレックスです。他の人に劣っていること。それがエネルギー源で す。 他人から劣っていることがあったら喜びなさい。ないと思ったら頑張って探して みてください。 それがあなたを大きくするエネルギー源なのですから。兎にかじられたり、雪で 折れたりした樹ほど大きくなっています。心が大きくなったからです。

 3  短所を大切にしてください。短所は長所の裏側です。短所をなくすと大事な長 所がなくなってしまいます。一体を存在させる(自分が居る)には表と裏がなく てはなりません。顔に光が当たれば背中に影が出来ます。そうならなければ幽霊 です。幽霊になる努力はしないこと。短所を大事にして大好きな自分をなくさな いように。短所はないと思ったら頑張って探してみてください。  (詩集の一体 生きること タンポポの綿毛 などを読んでみてください。)  以上質問への答は終わりです。
 またいらっしゃい。  高校をでて、君は大学にいくのかな?いっぱい勉強してください。  そのうち、いくらでも来れるようになるはずです。忘れませんから来れるよう になったらリュックひとつでいつでもいらっしゃい。歓迎します。
 なお、うまいくだもの園のホームページがあります。わたしの詩集「くだもの 園の四季」が30篇写真入りで載っています。中学生の君たちにもぜひ読んでほ しいメッセージを書いていますので、先生に話して見せてもらってください。役 立つと思います。
 最後にうまいくだもの園のくだものが大好きな悠子さんに当園の桃、川中島を プレゼントします。お召し上がりください。  君の質問への答を書きましたが役立ったかな?心配です。でもこれで勘弁して くださいね。 また、いつか悠子さんと会えますように祈ります。さようなら。

ラ・フランス園にて